実施報告

報告:多文化間メンタルヘルス研究会「海外派遣学生のメンタルヘルス」(2017年3月4日、京都)

JAFSA多文化間メンタルヘルス研究会 実施報告
テーマ「海外派遣学生のメンタルヘルス」



実施概要


日 時: 2017年3月4日(土)14:00-17:00
会 場: 京都大学日本語・日本文化教育センター 
講義室・国際交流多目的ホール
講 師: 武内治郎(京都大学健康科学センター 医師)
参加者: 27名


実施報告


 今年度の研究会では、武内治郎氏を講師として迎え、近年特に増加している「海外派遣留学生のメンタルヘルス」の課題について学び、検討した。次に、橋上愛子氏と村上裕子氏(東京海上日動メディカルサービス株式会社EAP室、臨床心理士)によって、当社で現在開発された「留学準備教育スケール(SRSA)」の紹介があった。さらに、A大学の担当者から現在対応中の派遣留学生のメンタルヘルスに関わる事例が紹介され、本研究会代表の井上孝代氏(明治学院大学名誉教授)がファシリテーターとなり、その事例について参加者がグループで検討し、最後に全員で検討結果を共有し意見交換した。

武内氏は海外派遣留学生に対する精神的健康度調査を行っており、本研究会では、調査結果、精神的不調の可能性が高いと判断される学生との面接で得られた知見、およびいくつかの事例とその対応例が紹介された。調査からは、渡航前の段階で約13%の学生たちが医師面接の基準に該当し、その半数弱は多忙感や不安、疲労、睡眠不足などを抱えている。渡航後にストレス関連疾患が悪化して留学を中断する学生も見られるが、この場合、渡航前から何らかの適応の難しさや既往歴がある可能性などが紹介された。武内氏の診療・相談実践からは、勉強の成績ですべてを肯定されがちな初等・中等学校時代を経て、大学に入って初めて自分の実力や資質と向き合うことになる学生は、苦戦した結果として留年や休学、退学となる例も少なからず見られるとのことであった。困難の克服を試みて、または現実から逃れるために留学を志向しても、却って自分を追い詰め心身共に苦境に陥る例も多い。渡航前後の調査票の利用と医師面接は、この悪循環を予防するのに有効であると述べられた。報告者(学生相談対応者)としても、学生の大人としての自立を促しつつ、孤立しないよう働きかけることの重要性を改めて感じた。



 留学準備教育スケールは、学生が留学前に自分の性格傾向に気づき、自ら働きかけることによってストレス耐性を高め、留学中の不適応を未然に防ぐという意義深いものである。同スケールで定義を試みた留学ハイリスク者に対しては臨床心理士による個人面談を行い適切なサポート源に繋ぐこともできると説明された。研究会参加者たちからは、スケール導入のコストと効果の明示化が、それぞれの機関においては課題となるという意見が出された。
 
A大学における海外派遣留学に関わる事例についての検討においては、大学生、特に成人の場合、親の意向がどこまで優先されるべきかを始めとして、誓約書、派遣先大学との調整、情報共有と守秘義務との関係など、現在多くの大学で課題となっている事項が共有された。   

井上氏からは、留学生事例の生成過程を可視化したり(case formulation)、職種・専門性の異なる支援者が留学生との対話・ミーティングを重ねながら互いにフラットな立場で共通理解に導くオープン・ダイアローグの手法をアドバイジングの分野にも導入できないか、それによって、学生、親、大学関係者などが共通の言葉や前提をもって話し合うことができないか、という可能性が示唆された。また、事例の蓄積を個人レベルに留めず大学や国レベルにすることで、各大学が教育効果の高い留学制度を企画運営できる環境を作っていくことが重要であることも共有された。その意味でも、本研究会が継続されていることは、貴重な実践であると改めて感じた。
国際教育交流の現場で日々働く参加者たちにとって、研究会すべての内容が非常に興味深いものであり、多くの参加者が予定時間を1時間ほど延長して意見交換を行った。



 


最後に、講師やファシリテーター、事例紹介者、また毎回本研究会の企画運営に尽力くださっている大橋敏子氏と京都大学の教職員の皆様にも感謝を表したい。

田中京子(名古屋大学)



★多文化間メンタルヘルス研究会については、こちら をご覧ください。
※本研究会に関心のある方は大橋敏子氏まで直接ご連絡ください。




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