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<実施報告>会議録【国際シンポジウム「グローバル・ランキングと日本の大学の将来」】(1/31東京)

2019年1月31日に開催された国際シンポジウム「グローバル・ランキングと日本の大学の将来」の会議議事録のページです。 ⇒ 「実施報告のページはこちら

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【国際シンポジウム「グローバル・ランキングと日本の大学の将来」】

エレン・ヘイゼルコーン著『グローバル・ランキングと高等教育の再構築
-世界クラスの大学をめざす熾烈な競争-』(学文社)邦訳書籍発刊記念


主催:科学研究費助成事業「教育経済学の新たなフロンティアを目指して
   -国際貿易理論によるアプローチ-」(挑戦的研究(萌芽)、
   研究代表者:麗澤大学経済学部 特任教授〔埼玉大学名誉教授〕永田雅啓)

共催: NPO法人JAFSA(国際教育交流協議会)、
    NPO法人海外留学生安全対策協議会(JCSOS)、麗澤大学
協力: 立命館大学(JAFSA理事校)国際教育センター、上智大学(JAFSA会長校)


13:30-13:40 「開会挨拶」


永田 雅啓(麗澤大学 経済学部 特任教授 / 埼玉大学 名誉教授)
本日のテーマは「グローバル・ランキング」です。大学の先生方の中には、このテーマを嫌う方も多いです。確かにランキングは大学を正確に評価できるものではないかもしれません。しかしこれは世界遺産と同じで、観光客にとっては、世界遺産が文化的歴史的価値を正確に評価しているかどうかよりも、世界遺産という既に社会的評価が確立されたものに指定されたという事実そのものが重要です。グローバル・ランキングも同じような段階に入りつつあります。
留学生の受け入れは、一種のサービス輸出であり、米国やオーストラリアでは、高等教育の国際化は産業政策の一環と捉えられています。そして、グローバル・ランキングは留学生を惹きつける手段として注目されています。日本では、グローバル・ランキングについて書かれた本はあまり出版されていません。英語で書かれたものも、その多くが論文集であり、大学の立場だけでなく、高等教育行政、学生、雇用者などの立場から包括的に書かれたものは他に例がありません。そこで、ヘイゼルコーン先生による本書が、日本での良い教科書になればと思い、翻訳をしました。
本日は専門家をお招きして、多面的にグローバル・ランキングについて、お話しいただきます。JAFSAさんや急なお願いにも拘わらず会場を貸して下さった上智大学さんをはじめ、今回のシンポジウムの開催にご協力くださった皆様に感謝申し上げます。皆様にとって、有意義な時間となることを祈ってご挨拶とさせていただきます。

杉村 美紀(上智大学 グローバル化推進担当副学長/総合人間科学部教授)
会場校を代表してご挨拶させていただきます。上智大学は2013年に創立100年を迎えて以降、「叡智が世界をつなぐ」というミッションを掲げて、様々な取組をしています。私たちの願いは、本日のように多くの方にお集まりいただき、上智大学をアカデミック・プラットフォームにして、様々な議論をしていただくことです。そういった意味でも、本日このようなシンポジウムが、上智大学を会場として開催されることを大変嬉しく思います。関係者の皆様、パネリストの皆様に改めてお礼申し上げます。

池野 健一(特定非営利活動法人 海外留学生安全対策協議会 (JCSOS) 理事長)
JCSOSは12年前に日本で初めて世界大学ランキングをテーマにシンポジウムを開催しました。これはQS社の依頼によるものだったのですが、今回は永田先生を主導として、客観的、経済学的アプローチからグローバル・ランキングを考えるということで、非常に興味深いなと感じ、共催させていただきました。これを機に、より深い知識でグローバル・ランキングとは何かを考えるいい機会にしたいと思っています。


13:40-15:10  基調講演


「グローバル・ランキングと大学の対応:実態は何を示しているのか」
エレン・ヘイゼルコーン

まずは私の著書を翻訳していただいた永田先生に心より感謝申し上げます。本日は、グローバル・ランキングが大学や学生の意思決定にどのようにインパクトを与えるかについて、お話しいたします。
グローバル・ランキングについて、私たちは単に数字、順位だけを追いかけるのではなく、もっとグローバルな視点で考えるべきだと思います。優秀な人材の重要性が増し、高等教育機関の間での獲得競争が激化しています。そのため、国内だけでなく、国際的な大学間の比較が重要な時代となりました。こうした様々な変化の中で注目されているのが、本日のテーマであるグローバル・ランキングです。高等教育機関では、質の高いプログラムを提供することが大切です。社会への影響力など、その質をどう測るかが重要です。
ランキングというと、大学を選択する学生のためのものだと思われがちです。しかし実際には、大学に関わるすべての人々の意思決定に大きなインパクトを与えます。大学はそれを宣伝材料としていますし、研究機関や企業も提携校を選択するための指針としています。また企業の採用担当者もランキングを参考にしているようです。政府も教育関連の政策決定の根拠として利用しています。
ある調査では、高等教育機関の60%がランキングを意思決定に活用していることがわかりました。大学はランキングを分析し、戦略を立て、特にトップ100に入ることを重視している大学は多いようです。
ランキングは学生、特に留学生にとって重要な情報源です。学部生の80%、大学院生も同様ですが、大学選択にランキングを活用しています。また、経済に余裕のある学生ほど大学のランキングを重視します。ランキングと同様に、レピュテーションも学生の意志決定に大きな影響を与えており、大都市にある大学ほどレピュテーションが高くなる傾向があります。驚いたことに、2014年に実施された調査では「指導の質」という項目の大学選択の意思決定に与える影響が低下して、上位10項目からはずれました。これは興味深い、そして問題のある結果だと思います。このようにランキングに対する反応が大きくなるにつれ、大学は研究の数を増やしたり、大学同士や研究機関、企業などとの協働に力を入れたり、ランキングをブランド化した広報に切り替えるなど、大きな影響を受けています。また、どのような大学と組むかが、大学のレピュテーションやランキングに影響を与えるようになってきています。
 いくつかの事例をご紹介します。オーストラリアは特に留学生に依存しており、国の政策としてランキングに取り組んでいます。グリフィス大学は比較的新しい大学ですが、かなり長い間ランキングを活用しています。戦略的な目標は、国際的に最も影響力のある大学のひとつになることです。中国の某大学でもランキングが重視されています。教員の採用にも大きな影響を与え、海外の博士号取得者を大量に採用するなどし、学内でのポストの変更等を含む改革をしようとしていますが、その結果、学内で緊張関係が生じています。シンガポールの南洋理工大学(NTU)は、この10年間でランキングを大きく上昇させました。政府からの大きな支援があることはもちろん、60%の職員を入れ替え、新しい教員を採用したことが大きな要因です。シンガポールでは終身雇用が一般化されていないため実現できたのでしょうが、欧米で同じことをするのは難しいでしょう。多額の研究補助金、教員の大規模な入れ替えなど、シンガポールならではの方法が採られました。
私がアドバイザリーボードのメンバーを務めるスペインのロビーラ・イ・ビルジリ大学(URV)も、上位にランクインしています。石油化学、建設、ワインなど地元の特性を踏まえた指導をしています。地方に根差した大学でありながら、逆にそれを活かすなど戦略的なアプローチをして、世界での評価を高めています。米国のケンタッキー大学はトップ20に入ることを目標とし、学生や教員の人数内訳、研究費などを明確に定めました。州立大学で地元の学生が多かったため、海外からの学生も積極的に入学させることを指針に掲げたのですが、これは経済的理由により実現できませんでした。
有名大学では、少子化の影響もあり、一人当たりにかけられる費用が増えています。しかし、システム全体のコストを考えていくことも大切です。国際、国内、地元のどこでのレピュテーションを重視するのか、大学側は戦略を考えていく必要があります。将来のトレンドとしては、国際間での比較の重要性が増していくでしょう。様々なツール、方法が国内外で開発されています。ランキング以外の国際比較のメカニズムも生まれてくるでしょう。ソーシャルメディアの活用、知識の集約、様々な領域の統合、再編が進むでしょう。政府のサポートも重要になります。
日本はトップ100に10の大学を入れることを目標としていますが、これは競争をもたらします。ランキングはゼロサムゲームです。どこかが上がればどこかが下がるのです。ランキングのためだけに大学を変えるのは、本来の目的ではありません。ランキングのプラス面とマイナス面を理解し、戦略的に活用することが大切です。


「大学改革におけるグローバル・ランキング」
佐藤 邦明(文部科学省 高等教育局 視学官(命)高等教育局 大学改革官)

グローバル・ランキングが大学改革でどのように活用されているかについてお話しします。大学改革が注目されている背景には、少子高齢化による人口減少と労働力不足、個人の付加価値の向上とイノベーション創出への社会的要請、研究力の相対的低下などがあります。そんな中、生産年齢人口そのものが減少していることから、海外から労働力を輸入しようという動きが活発になっています。
研究力の低下について、日本では国際共著論文数が圧倒的に少ないです。論文数は増えているにもかかわらず、国際共著論文数が少ないことは重視すべき点でしょう。産業、研究機関それぞれの研究者が「新しい研究領域を生み出すような挑戦的な研究が減っている」と考えています。これは日本の大学、研究機関にとって重要な課題です。
日本はグローバル・ランキングの影響を大きく受けています。日本政府は2013年の閣議決定で「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に我が国の大学が10校以上入ることを目指す」という明確な目標を設定しました。これが一つのきっかけになりました。2016年と2018年の閣議決定でも再度同じ目標が掲げられ、さらに「研究大学は各々の強み・特色を生かして分野別ランキングの向上を目指す」ことが明言されました。
具体的施策として、2014年にスーパーグローバル大学創成支援事業がスタートしました。支援区分にはタイプA(トップ型、世界大学ランキングトップ100を目指す力のある大学)とタイプB(グローバル化牽引型、日本の社会のグローバル化を牽引する大学)があります。文科省の発表しているQ&Aでは、タイプAの個別観点にある「国際的評価」について、「特定の大学ランキングを対象とはせず、個々の大学が客観的に説明するに足る指標を考える“国際的評価”に関する取組でも構わない」と回答されています。実際、これらの大学は国際化のための多くの取組を行い、一つの指標としてinternational outlookのスコアを見ると、タイプAに採択された13大学はランキングを上昇させています。取組が形になってきている証拠です。これから国際化がますます進んでいけば、対象校は自然と増えていくでしょう。
文科省の基本的なスタンスとしては、客観的な指標を通じて課題をしっかりと把握して、それぞれの改善に生かしていくことが重要だと考えています。ランキングは戦略的に使えばいいと思っているのです。また純粋に自分たちを見直す材料になればいいと思います。第5期科学技術基本計画の補足文書にも「世界大学ランキングは、評価方法や評価機関によって大きく変動するため、順位そのものに振り回されるべきものではない」と記載されていますが、順位に振り回されすぎて手段が目的化することのないように留意していくことも大切です。


「QS 世界大学ランキングと企業が求める人材像」
君和田 卓之
(三井物産株式会社 ヘルスケア・サービス事業本部 サービス事業部
ヒューマンキャピタル事業室長)

三井物産はQS社と提携しています。総合商社として、私のチームでは、「人材マーケット」の需要と供給のギャップを解消する仕組みづくりを進めています。産業界が大きく変わり、求められる人材が変化するなか、人材育成の仕組みはなかなか変わっていない部分がございます。そのため、人材需給のギャップがどんどん広がっています。私は人事部で採用、育成、評価制度等について取り組みました。また米国の大学院に留学した経験もあり、現在は教育分野、人材派遣分野への投資・事業開発を行っています。これらの経験を生かして、教育改革に貢献したいと思っています。
 QSランキングとはQS Quacquarelli Symonds社が作成する世界大学ランキングです。代表のNunzio Quacquarelli氏は、自身が留学先を選択する際の経験から、海外の大学の情報を効率よく比較検討することが難しいことを実感し、MBA留学中の1990年にQS社を創業しました。経営理念は「世界中の高いモチベーションを持った人材が、自身のポテンシャルを最大限活かし、国境を越えて活躍し、学問的な成果を上げ、キャリア形成していくことを支援すること」です。三井物産は、このビジョンに賛同し、大学と学生の双方の課題解決を後押ししたいと考えています。ランキングが大学のすべてを評価するわけでは勿論ありません。しかし学生が大学を選択する、または大学の戦略的な意思決定する際には、何らかの物差しがあった方が役に立つ、これがQSランキングの立ち位置です。ランキングを手段としていかに活用するかが大切であり、順位だけに固執して手段と目的が逆になることが無いように気を付ける必要があると思っています。
実はQSランキングは、他社のランキングに比べて日本の大学を高く評価しています。これは学術関係者や企業の人事担当者の評価を重視しているためです。日本の大学は総じて学術関係者と企業からの評価が高い傾向にあります。またQSは毎年留学生が学び・暮らしやすい都市のランキングも発表していますが、2018年、東京はロンドンに次いで2位となりました。ランキングでは、都市としての魅力、教育水準、安全性、就職、学費等を基準に留学生からアンケートを取って作成しています。
 続いて「企業が求める人材像」についてお話し出来ればと思います。QSランキングでは大学が、如何に企業が求める人材を輩出しているかも重視しており、採用に携わる人事担当者や会社幹部の意見をスコアとして織り込んでいます。また、QSではランキングの他に毎年企業が求める人材像と学生のギャップについても調査をしています。その結果、企業では、問題解決力、チームワーク、コミュニケーション能力、変化への対応力等が重視されていることが判った一方、これらは大学が育てようとしている能力とギャップがあることも判りました。
QSでは、このギャップを埋めるための取組を行っている大学を表彰するReimagine Educationというイベントを毎年開催しています。企業が求める社会人として必要な能力を育成する為の大学の新たな取組を、世界を代表するIT関連企業はじめ様々な企業幹部を中心に審査するものです。米国の大手IT企業の人事責任者から「2030年までにスキルのギャップはますます大きくなる。危機感を持って社員の育成にあたっている」という発言もありました。つまり企業として必要なスキルセットを持った人材を大学に頼らず、自社で育てる必要があるという危機感を企業が持っているというメッセージです。多くの企業経営者が同じ考えを持ち始めている様に感じます。
このギャップを埋めるべく取り組んでいる、いくつかの大学の代表的な取組事例を紹介します。米国のA大学では、世界30校のビジネススクールとネット上でつながりバーチャルチームを作り、ある企業が実際に抱える課題をコンサルティングして解決していくという取組を実施しました。学生はグローバルなチームの中で如何にリーダーシップを発揮し結果を出すか経験することになります。米国のB大学ではCO2排出量削減に取り組む地元企業の中に入り、プロジェクトを通じてリーダーシップ、チームワーク、交渉力、プロジェクトマネジメントを学んでいます。英国のC大学では、学生自ら授業をプロデュースし、学問だけではなく、プロジェクトマネジメントスキルを習得する取組を行っています。フランスのD大学では、交渉術の授業を新興国の学生に無料開放しています。
このように世界には様々な活動があります。日本の大学でも素晴らしい取組みが多数あるものと思いますが、この様なカンファレンスへの参加・発表はまだまだ少ないのが現実です。こうしたイベントも活用し、皆さまの大学の取組を世界と共有していくこともご検討頂ければと思います。


「ドイツからみた大学のグローバル・ランキング」
ハーゲン・エケルト
(データ・アナリスト、ドレスデン工科大学 / プロジェクト・マネージャー
uniMetricプロジェクトquantUPシュタインバイス研究センター)

ドイツでの具体的な取組、ランキングに対する見方の変化についてお話しします。私たちは科学的アプローチによりランキング向上させるため、政府から資金を得て、ランキングプロジェクトを実施しています。きっかけは、グローバル・ランキングにおけるドイツの大学の順位が、自分たちの想像よりかなり低いことがわかったからです。まずはドレスデン工科大学とテュービンゲン大学を対象に分析を始めました。私はデータ・アナリストとして関わり、大学に読んでもらうハンドブックを作成しました。プロジェクトが終了した後も、我々は会社を設立して研究調査と情報の共有を続けています。
2回目のプロジェクトでは、外務省から資金を得ました。1回目との違いは、QSランキングなどの生データを詳しく見ていったことです。ほとんどの大学がランキングを嫌う傾向にあったのですが、従来はブラックボックスとなっていた部分を解明したことで、ドイツにおけるグローバル・ランキングに対する見方が変わりました。優秀な博士を採用し、研究レベルを向上させるための手段として、ランキングを重視するようになりました。
私たちは、すべての大学をサポートできる仕組みを作っています。それぞれのランキングは似たように見えますが、実は違っています。それぞれの基準をきちんと把握することが大切です。Times Higher Educationのランキングを分析すると、これまでは求められた質問に対して、正しく答えていなかったことがわかりました。ランキング作成側の説明不足もあり、データ収集自体に問題があったのです。大学側もその重要性を理解していませんでした。これらを解決して正しい数値を提供することで、Times Higher Educationのランキングでは順位を上げることに成功しました。ところがQSランキングでは上がりませんでした。これは二つのランキングの違いを理解できていなかったからで、Times Higher Educationに提供したデータをそのままQSに提供してもうまくいきません。計算方法によっても結果は変わってしまいます。ランキング自体が残念ながら正確ではないということもわかりました。しかしツールとしては有効です。完璧ではないことを理解しつつ、大学の課題改善のために活用することが大切でしょう。


15:40-17:10 「パネルディスカッション」


*コメンテーター:米澤 彰純(東北大学 国際戦略室 副室長・教授 博士(教育学)総長特別補佐(国際戦略担当)
*ファシリテーター:堀江 未来(立命館大学 国際教育推進機構 教授)
*パネラー:ヘイゼルコーン、佐藤、君和田、エケルト、米澤、永田

プレゼンテーションに対するコメント
米澤 彰純(東北大学 国際戦略室 副室長・教授 博士(教育学)総長特別補佐(国際戦略担当)

ヘイゼルコーン先生の著書では、日本がドイツとオーストラリアと並ぶ主要なケーススタディと国として選ばれています。本日は日本とドイツのケースについて、大学・政府・市場のそれぞれの視点からお話しいただきました。大学目線での意見が少ないようにも感じたので、この後のディスカッションで話題にできればと思います。
永田先生とヘイゼルコーン先生では、日本についての見方が異なっているように感じました。ヘイゼルコーン先生は著書の中で「日本政府と大学が密接に協力し合っている」とありますが、永田先生の後書きでは「日本は世界的な変化から取り残されている」と書かれています。この2つがどう関係していくのかというのも、本日のディスカッションのポイントかと思います。そこで考えるべきは、ステークホルダーの存在です。大学と市場との関わりが増しています。政府も文科省だけではなく、他省との連携が必要です。複数の機関が関わり合っていかなければならない時代です。

日本ではSMARTなど、独自のレピュテーションが存在します。これらは学生に人気がある入学選抜度が高い大学ですが、高等教育予算が多く割り当てられている国立大学とは別の尺度で高い評価を得ており、グローバル・ランキングとは合致していません。日本社会の発想には、人に投資するときは若い方がいいというロジックがあります。世界でも、基礎教育にお金をかけたほうがいいとする意見と、創造教育やイノベーション教育が大きな価値を生むとする意見とで論争が起きています。企業と大学がどこまで役割分担するかについても、まだ公式がありません。中国は伸び盛りの国ですが、これは人口と経済力の利点を生かして政府単位で大学に投資しているからでしょう。米国では研究パフォーマンスを引っ張っているのは産業界であり、大学ではないという意見が主流となっています。このように世界でも、高等教育に関する解決策はまだ見つかっていません。
日本では産官学が一体となってオールジャパンで頑張りましょう、という動きがあります。大学は政府から何かをしてもらうのではなく、社会のために何ができるかを考えることが大切です。今回の会議をJAFSAが主催したこと、多くの参加者が集まったことに意味があると考えています。グローバルな視点を高等教育に持ち込むことについて、よく議論することが必要です。個人レベルでは国の枠を超えて世界で活躍する人がいます。大学、政府、企業と複数の機関が協働した際に、どのような活躍ができるかを考えることで、新しい取組が生まれるのではないでしょうか。

パネルディスカッション
(以下、会場からの質問に答える形でディスカッションが進められた。)

Q:ドイツのランキングプロジェクトにおいて、レピュテーションのマネジメントについて何か対策をされましたか。また生データとありましたが、それはQS社から購入したのでしょうか。最後に、ドイツの全大学をサポートすることになった背景を教えてください。

エケルト氏:レピュテーションマネジメントについて、ドイツ人はあまり注目していません。大学の資金には柔軟性がないため、宣伝などにかけられるお金は非常に少ないからです。企業との協力、留学生を増やすことをより重視しています。
生データについては、その購入にプロジェクト経費の多くを投じています。ただし、本日お見せしたものは公のデータです。
全大学をサポートすることになった経緯は、ドイツ全体で取り組まないといけないと判断したからです。まずは内部の数名で始めたプロジェクトでしたが、次第に外務省や他大学を巻き込み、現在はドイツのほぼすべての公共機関が関連していると思います。

Q:ドレスデン工科大学のランキング上昇による変化を教えてください。

エケルト氏:大学そのものはあまり変わっていません。モチベーションは向上しています。ランキングによる変化は期待していません。ミュンヘン大学もランキングを伸ばしていますが、それはデータの正確性が向上したからです。ランキングはプラス要素ではありますが、それを活用することの方が大切です。

ヘイゼルコーン氏:正確なデータは重要だと思います。大学が正確に自分たちのパフォーマンスを分析することに大きな意味があるのです。これにはコストがかかります。ランキングの上昇はゼロサムゲームです。大学が理解しなければならないことは、測定される意味が何かということです。数値を出すことは手段であり、目的ではありません。大学が時間とお金をかけてそれぞれの課題改善に臨むこと、これには長い時間を要するでしょう。

Q:ランキングを上げるためには、どれだけのコスト(経費、人材、時間)がかかるのでしょうか。

米澤氏:短期的に取り組むべきこと、中期的に取り組むべきこと、長期的に取り組むべきこと、様々な取組が必要です。初めは専門的な知識を持った人材を採用することが必要ですが、その先は大学の問題です。パフォーマンスが高い研究論文の数を増やすには何十年もの時間がかかります。学生が卒業後に優れたリーダーになるのも何十年も先のことです。

ヘイゼルコーン氏:ランキングは遅行指標です。大学のリーダーたちは、変化にかかる時間を考えることが大切です。スペインの例でも挙げた通り、地域に特化することがグローバルに影響することもあります。それぞれの大学の目的が何かを見つめなおし、社会との関連性を重視していただきたいと思います。

君和田氏:ランキングを上げることは目的ではなく手段です。それにどれだけコストをかけるかは、大学それぞれに考えがあると思います。まずはデータに基づいて客観的に自己評価することが大切ではないかと思います。強みを伸ばすのか、課題を解決するのか、何にコストをかけるのかは大学の目的によって異なるのではないかと思います。

佐藤氏:ランキングについて、各大学で競い合うのではなく、お金を出し合って分析をしたり、リソースを共有したりするような協力が必要です。ドイツでの協働について、教えていただければと思います。


エケルト氏:データは非常に高額です。ドイツでは大学が団結して、もう使わないと反撃をしました。お金を払わなければ情報にアクセスできないというのは間違っていると思います。オープンデータが重要になってくるでしょう。国をまたいで協働できることが理想ですが、まだ夢のような話です。


ヘイゼルコーン氏:大学や政府の予算がタイトになっている現在、オープンサイエンスが大きな課題になっています。ドイツ、イギリスなどEUではプランSを検討しています。導入されれば、すべての公的資金が投入された研究データは公開されることになります。


米澤氏:日本と欧米の違いが出る話題だと思います。三井物産がQS社と組んでいるように、日本では中間的媒体が入る余地があります。またそれそのものがビジネスとなっています。オーストラリアやドイツに比べて、日本には私立大学がかなり多いです。研究に強い大学、国際的でありながらマーケットが違う大学が、しかも公立と私立が混ざり合って存在しているのは日本独自の状況です。データのオーナーシップは複雑な問題で、学術という観点からすればオープンでフリーであるべきですが、日本の産業を支える大きなチャネルにもなり得るため、単純な問題ではありません。

ヘイゼルコーン氏:大学が公立か私立かに関わらず、協力すべきです。知識の民主化、資金の共有が必要だと思います。どう実現させるかは簡単な問題ではないですが、それに向けて進んでいるのも事実です。

Q:一部のランキング団体は、大学からコンサル料をもらっています。これは倫理に反するのではないでしょうか。

君和田氏:QS社はランキング自体では全く収益をあげていません。コンサルティング部隊はありますが、ランキング部隊とは厳格な情報の隔絶を徹底し、完全に切り分けられています。

ヘイゼルコーン氏:確かにランキング企業は収益を得ています。ランキングはビジネスです。しかしデータそのものではなく、データに関する知識を売っているのです。

エケルト氏:ランキングには改善の余地がまだまだあります。ただし、お金によってランキングを操作するようなことはしていません。データに伴う知識は、大学にとって大きな価値があります。

君和田氏:QS社には大学のマーケティングをサポートするコンサルティングサービスがあります。これはランキングには関係ありません。ランキング部門とコンサルティング部門とは、完全に切り離されています。

Q:政府からの視点として、総合と分野別の両方を重視しているようですが、特に注目する分野はありますか。政府は特定のランキング(Times Higher Education)を推奨しているように見えますが、いかがでしょうか。またSDGsに関するご意見をお聞かせください。

佐藤氏:特にどの分野を重視しているということはありません。各大学の判断に委ねています。またTimes Higher Educationに偏って見えるというのは誤解です。参照する文書にTimes Higher Educationが多いのは確かですが、その理由は正直なところわかりません。世界ではQSのほうが優位な気もします。SDGsは文科省も推進しています。大学に限らず教育現場で積極的に考えていってほしいと思っています。

Q:研究大学、政府、企業それぞれの立場から、日本の大学のこれからについて、一言コメントをください。

エケルト氏:ランキングを通して、大学は客観的な評価を知ることができます。これは学生にとっても、研究者にとっても重要なことです。日本の大学のこれからについて、世界の評価は非常に高いと思います。多くの留学生を呼び込み、イノベーションを高めることが大切です。

君和田氏:ランキングは一つの尺度です。それだけで大学を評価することはできません。ランキング等も参照・活用し、各大学がビジョンを確立し、実践していくことが大切ではないかと思います。我々も、日本の高等教育が世界に向けてさらに発展するために、お役に立てればと思っています。

米澤氏:大学運営にはお金がかかります。それぞれの取組にどのような効果があるのかがわかりづらいのですが、ランキングは費用と結果の相関関係がわかりやすいです。だからこそ、どれほどコストをかけるかは考えなければなりません。翻訳がなくても原書が読める、企業を介さなくてもReimagine Educationに参加できる、そうした変化が大切なのかもしれません。

永田氏:OECDを訪問した際、米国と日本はグローバル・ランキングの真空地帯と言われました。これは、両者ともグローバル・ランキングより国内ランキングを重視しているという意味です。米国のトップ・ランキングは世界のトップと同義のため問題ないかもしれませんが、日本でもグローバル・ランキングの影響は無視できなくなっています。以前は日本という国としてのブランドで留学生を集めることができましたが、現在ではグローバル・ランキングで見た大学の位置づけが、留学生にとって重要になってきています。少子化に伴い、留学生をどれだけ惹きつけられるかは、大学にとって重要な課題です。量だけでなく、質の高い学生を入れるためにもグローバル・ランキングは大切です。しかしその一方、日本では電車内の広告などにお金をかけている大学がたくさんありますが、その分の資金を教育研究に充てた方がもっとよいかもしれません。同様に、将来、ランキングを上げるために日本の大学が無駄なお金を使うことを懸念しています。そうした事態を避けるためには、正しい認識を多くの関係者が共有することが大切だと考え、本書を翻訳いたしました。グローバル・ランキングが高等教育の本来の目的を歪めることなく、日本の大学が正しい方向に進んでいくことを願っています。

佐藤氏:グローバル・ランキングはグローバリゼーションの一端です。世界を視野に入れて物を考えなくてはいけない時代です。ランキングに固執する必要はありませんが、国際化を自分のこととして考えるためにはランキングが必要です。日本の諸課題の答えは、国際との接点のなかにあります。知識の集合体である高等教育機関が社会をリードしていかなければいけません。ランキングがそのきっかけになることが大切です。

ヘイゼルコーン氏:私たちはグローバル化の世界に住んでいます。世界と切り離すことはできません。日本の高等教育機関に問われているのは、次の時代に向けてどう準備していくかということです。ランキングは、外部の目を取り込みました。各大学、政府は何を目指し、そのためにどうした指標が必要なのかを考えるべきです。
SDGsは世界的な課題で、多くの国がこの方向に向かっています。一方、ランキングは高等教育のエリートモデルですので、社会の中でできるだけ多くの人のニーズを満たすという方向とは、ある意味では相反するものかもしれません。どのような指標を使って、それぞれの目標を達成していくのか、意味ある指標とは何かについて、よく考えていかなければなりません。


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