実施報告

報告:多文化間メンタルヘルス研究会「多文化こころの医療通訳」(2016年3月19日、東京)

JAFSA多文化間メンタルヘルス研究会 実施報告
テーマ「多文化こころの医療通訳」



実施概要


日 時:2016年3月19日(土)14:00-17:00
会 場:明治学院大学白金キャンパス 本館3階1302教室
講 師:阿部 裕(明治学院大学心理学部教授、四谷ゆいクリニック院長)
参加者:27名

実施報告


本年度の研究会は、「多文化こころの医療通訳」というテーマで、四谷ゆいクリニック院長を兼務されている、明治学院大学心理学部の阿部裕(あべ ゆう)教授に講師をお願いした。代表の井上孝代、明治学院大学名誉教授の挨拶の後、ご講演いただいた。
引き続き、4名による事例発表が行われ、会場からも、各大学の現場が抱える数々の事例や情報が紹介された。最後に、精神科医、医療通訳者、患者という三者のロールプレイが行われた。
講演内容は、(1)医療通訳の現状、(2)日本の精神医療、(3)多文化外来クリニックの現状、(4)通訳する際の注意、(5)通訳を利用する際の注意、という構成で約一時間行われた。
今回も阿部先生は、「外国人のこころの支援をしたり医療通訳をする場合、留意すべきは、自分一人で抱え込まないで同僚や仲間の助けを借り、外国人支援ネットワークを利用するという点であり、患者家族との情報共有も重要である。その観点からも、多文化間メンタルヘルス研究会の横のつながりは大変ありがたい」と強調された。



質疑応答では、阿部先生から回答をいただいた。概要は次のとおりである。
Q1:医療通訳に医療の知識はどの程度必要か。
-A1:精神科の通訳の場合、基本的な知識は共通であるが、他科の医療通訳とは分けて考える必要がある。
Q2:本人と家族が帰宅を希望しても、大学は措置入院させたい場合、どのように対処すればよいか。
-A2:その場合は医師に判断してもらうとよい。
Q3:統合失調症が回復したので勝手に服薬を中止し、そのために病気が再発した学生が帰国し、再来日したいと希望している。このような場合はどのように対処すればよいか。
-A3:再来日しても必ず通院と服薬を欠かさないといった内容の誓約書を取り交わすべきである。
Q4:自殺念慮の留学生に対して、どのように声をかけたらよいか。
-A4:直接的な表現でなく、婉曲的に質問する。
Q5:英語対応の場合、英語でどのように表現したらいいか。
という質問に対しては、会場のネイティブスピーカーの参加者から対応のヒントの発言があった。
それは、“Have you ever thought about killing yourself ?” や “It is hard to ask you, but have you ever wanted to die ?” というように婉曲的な尋ね方で声のトーンも穏やかにするとよい。自分が答えられないような質問はしないとのコメントもあった。


また、阿部先生から「パニック障害について欧米では認知が進んでいるが、アジアでは心臓病と捉えがちである。初診の場合は、大学担当者も付き添った方がよい」とのコメントがあった。また、大学関係者からは、派遣・受入の緊急時に対応するサービスに関する紹介もあった。
ロールプレイの後、阿部先生から医療通訳について何点かアドバイスを頂いた。それらは、
(1)薬の名前と服用方法を間違えないこと
(2)うつ状態、うつっぽい、うつ病の違いを伝えるのは難しい
(3)中立的にうまく通訳するのは難しく、精神科の場合は患者のサポート側に立ってよい
(4)話した長さより通訳した長さが極端に短いと医師も患者も不安に感じる
(5)患者の了解があれば、通訳者に大学関係者が加わってもよい
(6)一人にするのが心配な場合は任意入院、本人が入院を拒否する場合には、医療保護入院あるいは措置入院をさせる
(7)診察の前に患者と通訳者が打合せを行うとよいなど。
昨今の外国人旅行客の急増、2020年の東京五輪・パラリンピック開催など、今後ますます医療通訳の必要性は高まっている。しかし、残念ながら、医療通訳士はまだ国家資格として制度化されていない。
今後、患者個人の文化背景も考慮に入れながら、より質の高い医療通訳を提供できるよう自治体と連携しながら、人材育成とサービス普及を促進していかなければならないだろう。


最後に、阿部先生、ロールプレイを行って下さった井上氏、堺氏、そして研究会をいつも企画・運営して下さっている大橋氏はじめ事務局の皆様に心から感謝申し上げたい。

報告者:高野 靖子(東京大学)



★多文化間メンタルヘルス研究会については、こちら をご覧ください。
※本研究会に関心のある方は大橋敏子氏まで直接ご連絡ください。




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